光ファイバセンシング

インターネットを通じた大容量のデータ通信は、もはや私たちの生活の一部になっています。IoT(モノのインターネット)や 5G(第5世代移動通信システム)などの言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。今後、ますます多様性のある端末がネットワークに接続されることは間違いありません。このような通信ネットワークの大容量化・高度化を支える伝送媒体が、光ファイバです。しかし、光ファイバの恩恵は、通信用途に留まりません。光ファイバを使って、伸びや温度などのいろいろな物理量を測定することもできます。光ファイバセンサは、電気配線が不要で、電磁ノイズにも強いなど、従来の電気センサにはない多くの特長をもっています。李ひよん研究室では、さまざまなタイプの光ファイバセンサについて、性能向上や新機能の実現を目指して、日々研究開発を進めています。

人間は、身体の一部をつねったり、熱いものに触れたりすると、どこがどれくらい痛いか(あるいは熱いか)がわかります。これは、人間の身体中に張り巡らされている神経のおかげです。ところで、建物や橋、ダムなどの社会インフラの経年劣化や損傷が大きな問題になっていることはご存知でしょう。トンネルの天井板の崩落など、痛ましい事故もありました。では、もしこのようなインフラに擬似的な神経が通っていたらどうなるでしょうか? 壊れそうな箇所や異常発熱している箇所がすぐにわかりますね。すると、使用を中止して補修する、あるいは、建て替える、などの判断が素早く下せるようになります。当研究室では、このようなインフラの疑似的な神経として、光ファイバセンサが活用できると考えています。特に、長い光ファイバの好きな位置で伸びや温度を計測できる「分布型」の光ファイバセンサに注力しています。下記の動画をクリックください。イメージがつかめると思います。この動画は、李が東京工業大学の博士課程に所属していたときに撮影したものです。

ここで特筆すべきことは、本学で教鞭を執られた堀口常雄先生の研究室を引き継いだのが本研究室であるということです。堀口教授は、光ファイバ中のブリルアン散乱という現象を用いることで温度や伸びの分布を計測できることを世界で初めて実証されました(論文はこちら)。現在、ブリルアン散乱を用いた分布型センシングの研究は極めて精力的にワールドワイドに展開されています。当研究室も例外ではありません。近年では、元東京大学教授の保立和夫先生が開発されたブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)をベースに、散乱スペクトルの傾斜を利用することで、超高速動作を達成するとともに、従来の空間分解能を超えるポテンシャルを提示しました。引き続き、東京工業大学横浜国立大学とも共同で、分布型光ファイバセンシングの研究を進めています。

また、芝浦工業大学オリジナルの研究テーマも精力的に推進中です。例えば、プラスチック光ファイバに機械的に誘起した長周期グレーティングに基づく温度・圧力・屈折率などのセンシングや、アクリルプラスチック光ファイバ中の非線形現象の観測とそのセンシング応用などが挙げられます。以下では、各テーマについての詳細を紹介する予定です。